6月11日、家庭科室に入ってきたキイロスズメバチの女王で大騒ぎ。
女王バチが春に一匹で巣作りの場所を探していることは知っていた。攻撃的な様子はなく、慎重に、静かに周囲を観察しているようだった。
「飼ってみようか」
衝動的な好奇心と、昆虫観察への探究心が背中を押した。もちろん、ハチの飼育にはリスクもある。すぐにカエルがいたケースを用意し、飼育スターをしようと決意し、女王が殺される前に安全に配慮しながら確保した。
まずは環境づくり。餌にはハチミツやその中にアリ飼育用のタンパク質、時にはすり潰した果物も与えた。もちろん水は毎日交換。巣材になりそうな木材片、細かく裂いた段ボール、枯れ枝、紙片などもケース内に配置。ハチは餌にはすぐに反応し、よく食べた。翅をこすり合わせたり、触角を盛んに動かしたりと、元気はあった。しかし、どうにも巣作りの兆候が見られない。
「もしかして…すでに失敗した個体だったのか?」
スズメバチの女王は春に一匹で巣作りを始め、働きバチを育てる。うまく行けば夏には大きな群れができるが、最初の段階で失敗すれば、群れは生まれない。ケースの中でじっと佇む女王の姿に、どこか孤独を感じた。自然界では生き残りがすべてだ。観察者としては興味深いが、女王にとっては一日一日が勝負だろう。
飼育を始めて20日間、残念ながら変化はなかった。巣材を動かす様子も、巣を作り始める素振りも見せない。だが、体力は保たれているようだった。
知り合いからは「スズメバチに巣が作られて壊した」という話が複数回あった。ということは、このまま巣を作れない状況で飼育をしていてもこの女王も困るのではないか。残念ながら「もう自由にしてやるべきだ」という結論に達した。


日曜日の午後、静かな日差しのもと、ケースを庭に持ち出した。ゆっくりと蓋を開ける。女王はしばらく出てこなかった。しばらくして、静かに羽ばたき、ケースの縁にとまり、辺りを見回して、ついに空へと舞い上がった。そしてベランダの柵に一度止まって様子見。一緒にベランダにいたネコがちょっかいをかけにいったので、刺激を与えると、力強く、まっすぐに飛んで行ってしまった。無意識に「いってらっしゃい」とつぶやいていた。
自然界に戻った彼女が、再び巣を作るかどうかは分からない。でも、閉じ込めたままで終わらせるよりは、ずっと良い選択だったと思う。
この約30週間、私は一匹のハチから多くを学んだ。自然は教科書以上に複雑で、そして美しい。小さな命との一対一の関わりは、静かだけれど確かなインパクトを残してくれる。でも今日から寂しいなぁ・・・

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